2022年の振り返り

初めに

この一年も色々な方にお世話になり、無事生き残ることが出来ました。ありがとうございます。本記事を持って2022年のご報告、感謝、反省とさせていただきます。

一年の振り返り

案件・ご依頼など

この一年でお受けしたお仕事のうち公開可能で、時間的・精神的なウェイトが大きかったものについて以下に雑感を述べます。

IPSJホール

情報処理学会様からの依頼によってZoom画面から3D空間上のバーチャル会場にカメラ画像を転送、カメラスイッチングするシステム及びバーチャル空間上のパーティクル表現を開発しました。

www.ipsj.or.jp

  • Zoom画面のカメラ映像を切り抜く
  • Unity製のバーチャル空間にカメラ映像を配置する
  • midiコンからの入力を受けてバーチャル空間上のカメラスイッチングを実現する
  • カメラの合成結果をYoutube配信に載せる

という一連の流れをオペ卓側のPC一枚でどうにかするという負荷的にかなりハードなタスクではあったのですが、負荷調整などを頑張ることで実現に成功しました。開発する範囲が配信パイプラインのかなりの域に渡っておりスケジュール的にも相当タイトだった記憶があるのですが、配信全体の設計をやれたのは楽しかったです。

moment

デジタルアートやジェネラティブアートのプラットフォームを運営しているneortさんが馬喰町に物理ギャラリーであるneort++を立ち上げることになったということで、展示の第一弾として企画されたNFTプロジェクトのうち、会場側のビュー開発を担当しました。プロジェクトとしては、NFTとして用意された桜の花がmintされるたびに会場に描画された桜の木に対応する花が咲き、最終的に満開になるという会場-NFT連動型の作品で、ウェブ会場、neort++会場、また会期の後半ではアーツ千代田で行われたProof of Xにも展示が設けられるなど非常に大規模な企画になりました。

作品自体としては、浮世絵の現代における再解釈みたいなものがテーマとしてあって、リファレンスを元に浮世絵風のシェーダーや表現などをザクザク作り込んでいきました。版画刷り特有の太く線幅にムラがある線画やScreenSpace-likeなグラデーションなどを再現する一方で、エミッションなんかを積極的に使っていて、新旧が入り混じった表現を目指しました。

また、今回は物理ギャラリーにプロジェクションされるタイプの展示だったので、コンテンツの消費速度についても考察した記憶があります。「コンテンツの消費速度の話」というのは、コンテンツの提供速度はメディアよって異なるコンテンツの消費速度に合わせて変更する必要があって、例えばTwitterで流す動画は6秒かそこらで消費しきれる速度で動かすべきなのだけど、物理ギャラリーだと現地に鑑賞しに行くコストや会場にいる時間を考えるともう少しゆったりした速度でコンテンツを提供する(動かす)べきだよね、みたいな話です。

この辺の議論は無限に出来て、例えば展示の形態、視野角に対するコンテンツの比率(スマホ画面なのか、プロジェクションなのか)などコンテンツの体感速度に影響を与える要素は非常に多いのですが、ジェネラティブとかリアルタイムのコンテンツは割とこの辺の調整が得意で、周期のスケールが異なるイベントを複数回すことで画面に提示されるコンテンツのパターンを増やして消費に要する時間を長くすることが出来ます。今回の展示では桜吹雪、鳥、天候、昼夜の概念などを異なるタイムスケールで動かすことで絵のループ感を減らして長い間新鮮なビジュアルになるように調整しました。

実装面としては、普段あまり触らないwebglでの実装でフレームワークとしてThree.jsを採用したのですが、インスタンシング周りの挙動はUnity使っている時と大した変わらずサクサク触れたことを覚えています。この辺の企画からsubstance designerやblenderなどでテクスチャやらモデルやらを作ってプロジェクトに組み込むようになりました。用途に特化したツールを使うとこんなに楽なのか、と諸々驚いた記憶があります。あるツールの重要性って、実際にそのツールを使ってみて威力を体感するまで理解できないのがなかなかつらいところだと思います。一度使うと大概「なんで早く使わなかったんだ?」みたいな気持ちになるんですけど。好き嫌いせずに色んなツールを触ってみることの重要性を改めて認識しました。毎月のサブスク代については考えないことにします。

この企画のビジュアル側の開発は桜の花の作成を担当されたAyumu Nagamatsuさんと共同でやっていたのですが、Nagamatsuさんは本当に色々な知識と洞察を持っていて、一緒に仕事をさせていただくに際してエンジニア兼アーティストとしてあるべき振る舞いみたいなものを目の当たりにし、美麗で技術的に優れたものを実装するだけが仕事ではないというのを実感させられました。正直今年芽生えた危機意識(後述)とかは永松さんとの出会いの影響がかなり大きいと考えています。

moment.neort.io

proof-of-x.exhibit.website

(実はCGエンジニアリングの勉強を始めたばかりのころ、永松さんがメゾネットメゾンのVJやってる映像を食い入るように見ていた過去があったので一緒に仕事出来るとわかったとき非常にテンションが上がっていました 恥ずかしいので内緒です。)

メタバース工学部 トレイラー制作

東京大学メタバース工学部プロジェクトのトレイラーとして映像を作成しました。昨年からBlender触り始めて初のプリレンダ案件だったので非常に楽しかったです。来年はもっとプリレンダの方も力を入れていきたいですね。

PARCO P.O.N.D.

今年一番楽しかった案件は何かと聞かれたら間違いなくこれを答えると思います。shinimaiさんにお誘いいただいて渋谷PARCO全域で行われる展示会であるP.O.N.D.の中の、P.O.N.D. Arcadeというインディーゲームを取り扱った企画に属する作品の一つとして「仮想生態系」を展示しました。

これはGPUで遺伝情報、群れ、被食-捕食、繁殖の概念を各個体でシミュレートすることで個体が生存のために起こした運動が全景を構成する様子を表現する作品で、これが「ゲーム」であるかどうかについては私自身も非常に怪しいと感じるところではありますが、自分より優れたインディーゲーム開発者が沢山いる中で自分が呼ばれた意味を邪推して、「いつものヤツ」をお出しすることにしました。

個人的には2020年ごろにそれまで10年ほど続けていたインディーゲーム制作から手を引いてグラフィックエンジニアリングの界隈に転向した過去があり、それに関して逃げた罪悪感というか、敗北感というか、とにかくそういった感情があったのですが、またこういう形でインディーゲーム界隈とかかわりを持てたのが本当に嬉しかったです。今でもインディーゲームのことを愛しているので。才能の無さをうまく誤魔化す方法を思いついたらまたゲームを作りたいです。

さて、展示の話に戻ります。P.O.N.D.自体の展示構成を聞いた時からモールに訪れる色々な方が通り掛けに作品に触れるような偶発的遭遇を想定していて、ルックをカジュアルに寄せるのに加えてインタラクション周りの配慮、例えば展示に文字を配さないようにしたり、小さい子が触れるようにインタラクティブな部分を可能な限り下の方まで伸ばすなどの準備をしていました。結果的に想定はかなりいい感じに当たって、用意していただいたPARCO5階のスゴイデカイタッチパネルがまさに色々な人が通りかかるような立地だったので、先述の処理が効いているのを見て取れたのが非常に良かったです。(マジで異常なまでの好立地でした) 特にチビっ子共のウケが良くて、ディスプレイに吸い付く様をニコニコしながら眺める一般不審者を丸一日やったりしていました。脳から変な汁が出る。また色んな人がSNSで感想とか呟いてくれていたのも嬉しかったです。割と色んな人に見られているのがわかってビビりました。

また、今回の展示は1週間の会期中毎日N時間駆動する、という仕様だったので長時間駆動した場合の挙動はかなり慎重に検証しており、会期中にこのアプリ自体がクラッシュしたり、ビジュアルが破綻することはありませんでした。やはりどんなに丁寧に作っても実際に長時間放置する検証は必須だと思います。大体1カ月ぐらいの開発期間のうち終盤の1週間ぐらいは仕様をフィックスしてひたすら長時間放置とバグフィックスをやっていた気がします。開発初期は微生物が全滅したり一種が卓越しすぎて生態系がぶっ壊れたり流体が吹っ飛んだりといったことが常に起きており調整には非常に苦心しました。みんなは外乱入れ放題の時間発展する系を長時間展示しようなんて考えないようにしましょうね。ほかにも苦労した点は山ほどあるので、技術的な話はまたどこかでしたいです。

自主制作

特にプリレンダとBlenderのgeometry nodesがアツかった一年でした。適当に良かったものを並べておきます。

院試・卒論

今年に入って休学が明け、学部4年から学業を再開したので非常にバタついた一年になりました。一年の休学の果てにすべてを忘れてしまっていたので勉強をやり直す羽目になったのですが、なんとか第一志望の研究室に行けることになりました。引き続き東大の情報理工系でなんか色々やる予定です。

これを読んでいる学生さんに向けて一つ紹介しておきたい日常生活破滅人間の詰みどころとしてTOEFL受験があります。東大の情報理工学系研究科だと出願前のTOEFL絡みのタスクとして

  • 院試の出願にはTOEFLの成績の提出が必要
  • TOEFLの成績が提出出来るようになるまでには約2~3週間かかる
  • TOEFL受験には事前に出願と会場の予約が必要(東京の会場は大体2週間前ぐらいに全部埋まる)
  • TOEFL受験にはパスポートが必要
  • パスポート発行には1週間かかる

等のディレイがあるのですが、私は全て知らなかったのでパスポートを取得した時点で受験日は出願に間に合うギリギリ、受験会場は全滅、という有様でした。幸いTOEFLには自宅受験可能なシステムがあったため、急ぎ機材をそろえて受験をしました。部屋の片づけやPC周りの不正防止処理など色々と面倒なことが多すぎて体験としてはかなり悪かったので今後TOEFLを受ける方はしっかり受験会場を予約するのがお勧めです。

後は院試の試験日程が科目ごとに分かれているのを見落としていて、数学の試験日が2週間前倒しになっていることに気づく(気づいた時点で受験2週間前)などのトラブルがありました。今後院試を受けられる皆様におかれましては受験要綱をしっかり読むことをお勧めします。

あとは10月ぐらいから卒論研究が始まっていて、常にキャパシティが圧迫されています。弊学科は異常カリキュラムによってなぜか院試明け10月から卒研が始まり、2月とかその辺で卒論提出になります。なんで?

音声系の研究室にいるのですが研究自体は非常に楽しいです。自主制作に生かせそうな知見もあって良いです。

反省

2020年ごろからグラフィックエンジニアリングの界隈で勉強させてもらってから早3年目でしたが、少しずつお仕事をいただけるようになっていっているのが非常に嬉しいです。才能もなく出遅れてる三流のカスだけど皆様のおかげでなんとか生かしてもらっています。本当に。以下に今年の反省点を述べます。

言語化

これまで言語化を怠ってきたツケが回ってきた一年でした。

neortさんのmomentでtwitter spaceやったときも、P.O.N.D.つながりでDommuneに出た時もそうだったのですが、作意について聞かれた際全くと言って良いほど言語化が出来なかったことを非常に後悔しています。

これまで私は「碌なもの作れないカスの主張なんて誰が聞くんだ?」みたいな捻くれた考え方があったり、そもそもとしてごく一般の情報系の出自として美術に対する素養が全くなかったり、そもそも目指しているところがコンテクストに依存しない純粋な楽しさだったりするせいで私は「自分の制作に対し何らかの意味付けをする」といった行為を極力避け、口を動かすぐらいなら手を動かす択を選んできたのですが、最近では営み全体に対する作品の位置取りを説明出来たり、作品をコンテクストや言語で補強することが出来る人間の強さというか、安定性みたいなものを理解できるようになってきました。

私がなんとなくビジュが良い~とか言って作っているものは世間の価値観と少しでもズレた瞬間に無価値になるんですけど、コンテクストを把握できている人間はそれをアンカーに価値観をチューニングできるし、世間の価値観以外の評価指標で作品を測ることが出来るし、作品の意味付けや言語化をしっかり出来る人は雰囲気で作る部分を減らすことが出来るのでより素早く正確な制作が出来る。強いな~。

そもそもの性格が根暗オタクなのに加えて先述のような理由で人と創作について話すのがすごく苦手なのでこれまでは言語や意味づけを求めるような場を意図的に拒絶していたのですが、来年こそは創作について話すことへの嫌悪感を克服したいなと思っています。創作の話を気軽に振ってください。多分第一声は「微分方程式で全体が記述できると楽しいじゃないですか」とかになる気がしますが。

「誠実さ」について

誠実さを保つのがいかに難しいかについて実感した一年でした。

現実のものをモチーフにした作品を作るにおいて大切な観点としてモチーフに対してどれほど「誠実」であるか、というのがある気がしています。「モチーフの事をきちんと理解し、表現に臨むこと」をここでの「誠実さ」であると定義します。「誠実さ」が欠けた状態でモチーフに対して良く知らない部分を雑に補間することでその振る舞いはモチーフの対象から徐々に乖離していくことになります。

自分の例で言うと「ピタゴラ装置をモチーフに作品を作る、物理的整合性を保つ実装が思いつかなかったので適当な近似でお茶を濁す」「ある動物をテーマにした作品を作る、動物の事を良く知らないので雑に本を流し読みして適当に挙動を実装する」「プランクトンをモチーフにした作品を作る、よくわからないので架空のものってことで誤魔化す」といった所作をやってしまった時に「誠実さ」が失われてしまったと感じています。実のところ人はみな異なる専門分野を持ちそれ以外のことについてはそんなに詳しくないので、こういった「誠実さ」の欠如は意外とバレないものですし、制作コストとの釣り合いで意図的に適当な補間を導入することもあるとは思います。

その一方で何らかのモチーフを元に制作を行う以上、どのくらいの「誠実さ」を保ち続けようと試みるかは重要な決定であると考えられます。いざ「誠実さ」が求められる時、それは付け焼刃ではどう足掻いても得られぬものですし、意図的に近似を導入する場合にしても理解したうえで導入した補間と適当で雑な補間の間には取り回しに明白な差が存在します。短期的には適当な誤魔化しが通じても、こういった積み重ねは長い目で見ると制作のクオリティを大きく左右するものであると私は考えています。

資本主義的クリエイティブをやっている以上このような「誠実さ」を保つには実現に要する最小のコスト(これは要するに予算の事を指します)に更に上乗せする形での努力が必要となります。要するに「採算度外視」ということになってしまうため仕事のモチベだけでこれをやろうとするとなかなか大変で、今年は私も十分な「誠実さ」を保つことが出来なかったんじゃないかなと思っています。簡潔にまとめると常に学習を続けろ/下調べを怠るなという話なのですが、それが意外と難しい、というのを実感した一年でした。

制作速度

サッとやる、みたいなことが苦手なのが露呈した一年でした。

関わった作品数を見ればわかると思うのですが、私はいわゆる「筆が遅い」部類で、開発途中のものが動作している様子を眺めながら次に何をすれば良いのか、何をすればより良くなるのか、というのがわからずボーっと数時間経ってしまう、みたいなこともザラにありました。これはプログラムという回りくどい手法で映像を出す部類の制作であったり、そもそも僕自身の地頭が良くなかったりするのも原因としてあるとは思うのですが、先述した言語化や意味付けする力に対する怠慢も原因の一つではないかと考えています。どうにかします。

物量不足

まぁ単純に制作した作品の数が少なかったですね。院試とか卒論とかアルバイトとか言い訳のしようはいくらでもあるのですが、生存に足る物量を出せていないのは事実なので。この程度では遅かれ早かれついていけなくなって死ぬので来年はもっとガシガシにやっていきます。

体調には気を付けよう

12月にうっかりストレス起因の病気をやっており、早期発見で事なきを得たので結論としては無事だったのですが相当ヒヤっとしました。この手の病気は油断すると制作にかかわる部位を直接吹っ飛ばしてきます。皆さんも健康には気を付けて。

来年の目標

来年は人ともっとかかわりを持つことを目的としたいです。引きこもって鬱々としていてもいいことは無いので。あといい加減VRChatもやりたいです。気になっている人はいっぱいいるのに全然話かけられずにいます。あんまり人と話すのが得意ではないので、何か手土産にGPUを使ったワールドでも作ってお話に臨もうかな、と思っています。よろしくね。

おわりに

この一年に関しまして、お世話になった皆々様には返す返すお礼申し上げます。 来年は今以上に色々なことをやっていきたいです。 お仕事、遊び、なんでも良いのでお誘いをお待ちしています。常に大歓迎です。雑にDM飛ばしてください。